2026.08.31
レベニューマネジメントとは「稼働率を上げること」ではない。~利益を最大化するための考え方~
ホテルや旅館などの宿泊施設において、「もっと稼働率を上げたい」「もっと客室単価を上げたい」という相談は少なくありません。しかし、レベニューマネジメントを考えるうえで、最初に考えなければならないのは、「稼働率を上げること」そのものが目的なのか?ということです。
レベニューマネジメントの本来の目的は、単純に客室を満室にすることではありません。限られた客室という「在庫」を、需要に応じて適切な価格・適切な商品・適切なタイミングで販売し、最終的な売上・利益を最大化することが目的です。
今回は、レベニューマネジメントをどのように運用すれば利益が最大化できるのかについて解説します。
まずは現状分析から始める
レベニューマネジメントを始める際、いきなり「価格を上げましょう」「プランを増やしましょう」と考えるのは適切ではありません。
まず必要なのは、施設の現状を正しく把握することです。

同じ施設であっても時期によって需要が違います。繁忙期と閑散期でも当然、需要は変わります。
にもかかわらず、価格をコントロールしていないのであれば、そこにはレベニューマネジメントによって改善できる余地があります。
レベニューマネジメントは「稼働率を上げる」のか?
ここで重要になるのが、稼働率と客室単価の関係です。一般的に、稼働率を高めようとすれば、価格を下げる方向に力が働きます。
一方で、客室単価を上げようとすれば、価格上昇によって予約数が減少し、稼働率が下がる可能性があります。
つまり、稼働率アップと単価アップは、必ずしも同時に達成できるものではありません。むしろ、一定の条件下ではトレードオフの関係になります。
例えば、客室単価10,000円で100室販売できれば、売上は100万円です。
一方、客室単価15,000円に上げた結果、70室しか売れなかった場合、売上は105万円になります。
この場合、稼働率は下がっています。しかし、売上は増えています。
だからこそ、「稼働率が上がったから成功」「稼働率が下がったから失敗」と判断するのではなく、価格と販売数量を組み合わせて、どれだけ収益を生み出せたかを見る必要があります。
ここで重要になる指標がRevPARです。
RevPARを改善するという考え方
RevPAR(Revenue Per Available Room)は、販売可能な客室1室あたりの売上を示す指標です。

例えば、
ADR 10,000円 × 稼働率70% = RevPAR 7,000円となります。
これをADR 15,000円、稼働率60%にすると、
ADR15,000円 × 稼働率60% = RevPAR 9,000円となります。
このケースでは、稼働率は70%から60%に下がっています。
しかし、RevPARは7,000円から9,000円へ上昇しています。
つまり、「何%埋まったか」だけを見るのではなく、「販売可能な1室からどれだけの売上を生み出したか」を見ることが重要なのです。
そのため、レベニューマネジメントでは「稼働率を最大化する」という考え方から、「RevPARを改善する」という考え方へ視点を変えることが重要です。
価格変更には「ルール」をつくる
では、具体的にどのように価格をコントロールすればよいのでしょうか。重要なのは、担当者の感覚だけで価格を変更するのではなく、価格変更のルールをつくることです。

予約状況を見ながら価格を段階的に変更していくことで、その時点の需要に合わせた販売が可能になります。
100室のホテルで、30日前の時点ですでに60室の予約が入っている場合、この時点で「まだ40室空いているから、安くして予約を増やそう」と考えるのではなく、
「残り40室を、今後どの価格で販売するのが最も収益性が高いか」
を考えるのです。
「高付加価値プラン」を投入する
レベニューマネジメントでは、価格を上げるだけが方法ではありません。
もう一つ重要なのが、「高くても選ばれる商品をつくる」ことです。

単純に「1泊10,000円」を「1泊15,000円」にするだけでは、価格上昇に対する抵抗感が生まれます。
しかし、10,000円のプランと15,000円のプランがあり、15,000円のプランには明確な付加価値があるのであれば、顧客は「5,000円高い」のではなく、「5,000円追加して、この体験を買う」という判断をすることができます。
これは、単価を上げながら需要を維持するための重要な考え方です。
価格を上げるのではなく、価格を上げられる商品をつくる。これもレベニューマネジメントの重要な仕事です。
レベニューマネジメントツールとは?
レベニューマネジメントは「こまめな価格調整」が必要であり、担当者がすべて手作業で行うのは、非常に大きな負担になります。そこで活用したいのが、レベニューマネジメントシステム(RMS:Revenue Management System)です。
宿泊施設の販売状況や需要などのデータを分析し、「いつ、どの程度の価格で販売するべきか」という価格判断を支援してくれます。
機能はツールによって異なりますが、一般的には、
- 現在の予約状況
- 過去の予約実績
- 予約ペース(Pickup)
- 曜日・季節による需要
- 予約リードタイム
- 競合施設の価格
- 今後の需要予測
などの情報をもとに、価格設定を支援します。
人が毎日すべてのデータを確認するのではなく、大量のデータをツールに処理させ、人間は重要な判断に集中するという考え方です。
ここで注意したいのは、レベニューマネジメントツールを導入すれば、それだけで収益が最大化されるわけではないということです。ツールはあくまで、データ分析や価格判断を支援するものです。
例えば、ある施設が「高単価の宿泊体験を提供すること」を経営方針としているのであれば、単純に競合価格に合わせるだけでは適切ではありません。
また、地域イベントや大型連休、天候、交通状況など、データだけでは判断しにくい要素もあります。
そのため、ツールがデータを分析する。レベニューマネジャーがそのデータを読み、経営方針と照らし合わせて判断する。
という役割分担が重要です。
レベニューマネジメントツールは、人間の代わりになるものというより、レベニューマネジャーの判断力を拡張するためのツールと考えると分かりやすいでしょう。
まとめ
レベニューマネジメントは、単純に「稼働率を上げる」ための施策ではありません。
まず施設の現状を分析し、「稼働率を上げるべきなのか、それとも単価を上げるべきなのか」を判断することから始まります。
そのうえで、
- 需要に応じた価格変更ルールをつくる
- 高付加価値プランを投入する
- ADRと稼働率のバランスを管理する
- RevPARを継続的に改善する
- レベニューマネジメントツールを活用して、価格判断の負担を減らす
という取り組みを行います。
レベニューマネジメントにおいて最も重要なのは、「価格を変えること」ではなく、「需要に合わせて価格を変えられる体制をつくること」です。
日々変化する予約状況を人がすべて確認するのには限界があります。だからこそ、データとレベニューマネジメントツールを活用しながら、人間は「なぜこの価格にするのか」「この施設ではどの顧客を取りに行くのか」という、より重要な判断に集中する。
そして最終的に目指すのは、満室という数字ではなく、限られた客室在庫から最大限の収益を生み出すことです。それこそが、レベニューマネジメントの本質です。